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篠原班員の論文がProc Natl Acad Sci U S A. に掲載されました

2014.06.04

この論文は精子幹細胞の自己複製分裂を負に制御する分子を初めて報告したものです。これまでの研究で精子幹細胞にはGDNF, Rasをはじめとした複数の自己複製促進因子が同定されてきました。しかしながら生体内での幹細胞の分裂は非常に遅いことが知られており、分裂を負に制御する分子の存在があるのではないかと私たちのグループでは考えていました。

その最初として注目したものがp27 cyclin-dependent kinase inhibitorでした。この遺伝子のノックアウトマウスは巨大睾丸をもっており、精子幹細胞の分裂が促進されているのではなかろうかと思った訳です。しかしながら、2010年に私たちが発表した論文ではp27を欠損した精子幹細胞は自己複製分裂の頻度が減少しており、分化型の分裂が亢進していることが明らかになりました。

今回の論文ではFbxw7というubiquitin ligase分子に注目しました。この分子はNotchやc-mycをはじめ数多くの標的分子を持つことが知られています。幹細胞では特に注目されて解析されていますが、臓器によって癌化や細胞の枯渇など異なる表現型を示します。精子幹細胞においてはFbxw7は細胞周期依存的に発現しており、増殖があまり活発ではない細胞で強く発現しています。この分子を過剰発現すると、幹細胞活性は低下し、逆に欠損させると自己複製分裂が亢進し移植後のコロニー数が増加すると共に、精子分化が抑制されてしまいます。これらの結果から、Fbxw7は精子幹細胞の自己複製を負に制御する分子であることが示されました。

GS細胞を用いて、Fbxw7の標的分子を探したところ、cyclin E1とc-mycが候補因子として同定されました。実際にcyclin E1とc-mycの機能を抑制するとFbxw7欠損細胞での自己複製亢進が抑制されてしまいました。一方でcyclin E1を強制発現しても何も起こりませんでしたが、c-mycを強制発現すると幹細胞活性は増強されました。この結果からc-mycは幹細胞活性の制御の鍵になる分子であり、c-mycをFbxw7が破壊することで自己複製分裂が負に制御されているのではなかろうかと考えています。

2003年にGS細胞が樹立されてから、既に10年経ちました。紆余曲折はありましたが、これまでおぼろげであったこの細胞の自己複製機構は徐々に明らかとなってきています。これまでは自己複製を促進する分子にのみ興味が集中してきましたが、今後はFbxw7のような自己複製を負に制御する分子が他にも続々と登場してくるのではないかと思います。Fbxw7をはじめとした増殖制御因子を外来因子により操作することができれば、幹細胞の数や生体内で作られる精子の量なども自在にコントロール出来るようになるかもしれません。
  (篠原)

(Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Jun 17;111(24):8826-31)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24879440

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