宮川班員の論文がCurr Biol.に掲載されました
2015.05.12
今回、宮川先生がCurr Biol誌に発表された論文はpiRNAを人工操作することで遺伝子発現抑制系ができたことを報告するものです。
皆さんご存知の通り、宮川先生はpiRNAの研究初期から活躍された方です。MiwiやMiliという今では有名になった遺伝子をクロニーングされたのは彼女です。はじめ名前を聞いたときは如何にも舌をかみそうな分子だなあと思いましたが、もう今ではすっかり馴染みの遺伝子になりました。
piRNAの研究は近年続々とインパクトのある論文がでて、その進展に多くの日本人研究者が貢献してきました。不勉強な自分はあっという間に置いておかれてしまった感があります。そういう意味では短い間に急速に解析が進んだ研究分野です。
今回の論文ではこのpiRNAの操作で特定の遺伝子部位にDNAメチル化を誘導できることを示してあります。最初の実験ではOct4 EGFP transgenic mouseから発現するEGFPを抑制するために、Miwi2のプロモーター下にEGFPのアンチセンス鎖を発現するtransgenic mouseの作成を行っています。交配して、この両方のtransgeneをもつマウスを作ると、生殖細胞におけるOct4-EGFP遺伝子の発現は綺麗にシャットオフされてしまいました。EGFPの発現抑制はMiliとMiwi2に依存しており、これらの遺伝子のいずれかを欠損させるとEGFPの抑制も外れてしまいます。次の実験では内在性の遺伝子を標的としました。選ばれた遺伝子はDnmt3Lです。これも皆さんご存知のように、DNAメチル化酵素として生殖細胞のDNAメチル化に重要な分子です。この実験系でもMiwi2のプロモーター下にDnmt3Lのアンチセンスを発現させると、Dnmt3Lの発現は抑制されてしまい、Dnmt3Lノックアウトマウスの重要な表現型であるLINE-A, LINE-Tf, IAPなどの発現亢進も確認できています。このように生殖細胞では人工piRNAを用いた意外に簡単な方法で様々な遺伝子の発現抑制を引き起こせることが明らかになりました。
今回の新学術領域の立ち上げのときに私は「エピゲノム制御」を領域の大きな目標の一つとして設定しました。ある分野がある程度成熟して理解が進んでいったとき、細部ばかりを見ているとシステムの複雑さに圧倒されてしまいますが、見る角度を変え複雑なシステムの鍵分子を操作することで、複雑なものを複雑なまま別のものに変えることも可能になってくるだろうと思ったからです。実際に小倉先生が成功されたXistの操作による核移植クローンに効率改善もこうした例の一つでした。これまでのサイエンスの歴史をみると、理解・操作のサイクルからまた別の観点や発見が生まれることはよくあります。その意味で宮川先生の今回の成果は今後更に新たなエピゲノム操作の発展に繋がるものになるのではないかと期待しています。
(篠原隆司)
(Curr Biol. 2015 Mar 30;25(7):901-6.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25772451