青木班員の論文がEMBO J.に掲載されました
2015.07.14
オミックス解析は、このような研究に使うべきなんだ、とまさに実感できる研究成果を、青木不学先生のグループがEMBO Journal誌に発表されました。
青木先生は、長年、受精後の胚性遺伝子発現の活性化とその制御機構について研究されています。胚性遺伝子発現の開始は、マウスでは非常に早く、すでに1細胞期胚で始まりますが、どのような遺伝子の転写が開始されるか、どのような制御が働いているかについては、まだ不明な点が殆どでした。そこで、MII卵から、胚盤胞まで、それぞれ数千(!)のサンプルを集め、トータルRNAを抽出し、polyAセレクションはせずに、RNA-Seqライブラリーを作製し、各ステージでの転写産物の網羅的解析を行いました。
その結果、明らかになった重要な点は、1)1細胞期胚での遺伝子発現はpromiscuousである;遺伝子間領域から、無数の転写が起きており、また数千の遺伝子からも、低レベルの転写が認められる。これは、RNA-Seqの結果を見れば、明らかで、低コピー数の転写産物がいたるところに認められ、実際は、比較的長い転写物を断片的に見ていることがわかりました。しかし、この転写は、通常使われるコア・プロモーターなしで起きていることを、レポーターコンストラクトの導入実験等で明らかにしました。2)この時期の転写産物には、翻訳可能なmRNAは殆ど含まれていない;一細胞期胚のRNAは、イントロンを含んだままであったり、転写が止まるべきところで止まっていないものが非常に多く、スプライシングや3'端のプロセシングが働いていないと考えられます。
このように、1細胞期胚の遺伝子発現は、通常と大きく異なっていますが、その理由は? 青木先生達は、1細胞期胚のクロマチン構造が、まだ未熟であり、それ以降のステージと比べてコンパクトではないため、エンハンサーやコア・プロモーターを利用しないpromiscuousな転写が起きてしまう。しかし、このようなゲノムワイドな転写産物が翻訳され蛋白質になるとその後の発生に悪影響を与えるため、その翻訳を抑えるような機構が働いているのではないか、とディスカッションされています。個人的には、このような現象が、他のエピゲノム再編時にも起きているか、知りたいところです。
また、では1細胞期胚での転写は、積極的な意味は持たないのか、という点ですが、未発表データとして、この時期の転写を抑えると2細胞期で発生が止まるということも発見されており、実はちゃんと重要なことをしているであろう、ということなので、今後もますます興味深い発見がなされるものと期待されます。
(阿部訓也)
(EMBO J. 2015 Jun 3;34(11):1523-37.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25896510