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阿部班員の論文がStem Cell Reportsに掲載されました

2015.07.14

 今回、阿部先生らのグループが報告した論文は、Epiblast stem cell (EpiSC) の樹立の際に、Wntシグナルの阻害(Wnt阻害剤である IWP-2の添加)により、劇的にEpiSCに誘導される効率が増大することを発見したという論文です。
 マウスの着床前の胚から樹立されたES細胞に対して、Epiblast stem cell (EpiSC) は着床後のマウス胚(エピブラスト)から樹立された多能性幹細胞です。マウスES細胞の多能性維持にはLIF/Stat3シグナルに依存した転写因子の制御が必要です。一方で、マウスEpiSCは、ヒトのES細胞と同様に、LIF/Stat3の依存性はなく、Fgf2/ERKに依存することが知られています。阿部先生らは、これまでにさまざまな多能性幹細胞の遺伝子発現を解析してこられ、どこに違いがあるのかを知り尽くしておられます。
 その中で、Wntシグナルに着目し、Wnt阻害剤によりEpiSCに誘導される効率が増大することを発見し、シンプルで確実なEpiSC樹立法を確立しました。通常は、E5.5の胚を取り出しvisceral endoderm(VE) 近位内胚葉を分離して、EpiSCを樹立するのですが、阿部先生らの方法は、VEを分離することなくEpiSCを樹立でき、樹立効率も上昇するという画期的な方法です。小さな小さな着床後の胚を取り出してくるだけでも大変なのに、そこからEpiblastとVEを分離するのがいかにストレスフルか、というのは容易に想像できます。(ゴットハンドを持つ1st authorの杉本さんにとってはなんてことないかもしれませんし、ぺりっとVEを剥がすのが快感だという人もいるらしいですが...)、EpiSCの研究者にとってはなによりの朗報だと思います。
 さらに、Wntシグナルの阻害によって樹立したEpiSCは、正真正銘のEpiSCというだけでなく、Wnt阻害剤を添加してEpiSCを培養すると、遺伝子発現がより未分化で均一な状態になることを明らかにしました。この現象は、ヒトのES細胞やヒトのiPS細胞でもみとめられるそうです。いわゆる多能性細胞の状態は、「ナイーブ型」と「プライム型」というのに分類されていますが、マウスES細胞が「ナイーブ型」、マウスEpiSCは、ヒトES細胞やヒトiPS細胞と同様に「プライム型」として区別されています。Wntの阻害により分化が抑制されより未分化な状態になるということも同じであるということになれば、同じ「プライム型」であるヒトES細胞やヒトiPS細胞の幹細胞維持と分化のメカニズムの解明に、EpiSCの研究がますます重要性を増してくるものと期待されます。また、この系を用いて、着床前後で起きるエピゲノム変換(X染色体不活性化に代表される)について、阿部先生たちのさらなる解析が進んでいくことと思います。
  (宮川さとみ)

(Stem Cell Reports. 2015 Apr 14;4(4):744-57.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25818811

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