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伊川班員の論文がScienceに掲載されました

2015.10.02

伊川さんのグループの論文がサイエンスに掲載されます。

「男性用避妊薬の可能性」というセンセーショナルな宣伝文句はプレスリリースにお任せするとして、Scientificな発見に焦点を当てて内容を紹介したいと思います。

この論文では、精子特異的カルシニューリン(カルシウムーカルモジュリン依存的脱リン酸化酵素)が精子の成熟に必須でその酵素が欠損すると、精子の動きが悪くなり、受精できなくなるというものです。最初にざっと目を通して、精子の動きをトレースした写真をみても一体どこに異常が?と思うほどのわずかな違いです。この違いを見出した執念と思える解析の掘り下げ方は見事というしかないです。脱帽。

導入は、一般的に免疫抑制剤として使われているサイクロスポリンやFK506という薬を服用した男性の受精能が低下し、正常な精子をこれらの薬剤で処理すると精子の動きや受精能がなくなるという危険性の提示です。これらの薬効がカルシニューリンの阻害であることから精子の成熟にカルシニューリンが関与していると考えたわけです。

カルシニューリンには精子特異的なアイソフォームがありPpp3cc, Ppp3r2のヘテロダイマーからなる。この論文ではPpp3ccノックアウトマウスの解析が主体になる。まず、不妊になることの記載から、その謎解きは始まる。まず、精子が卵子に到達できないこと見つけて体外受精を行う。ところがこれでも受精しない。卵丘細胞を除いてやってもダメ。どうも透明帯を突き破ることができないようだとわかる。実際に透明帯を取り除いてやれば、受精できるし、正常にマウスが発生する。ここでめでたし、とはならず、何故突き破れないのか?先体反応がおきないのか?おきている。では何だということでさらに精子の動きをコンピューターで詳細に比較する。どうも少し速度が落ちてはいるようだということで、hyperactivationを調べてみた。とここでhyperactivationって何?どうやって測るの?と思ったが、受精には必要な精子の頑張りをそう呼ぶようである。要するに、尻尾の振り方が足りないようである。ここでまた何故?となる。で、最後に見出したのが、KO精子の尻尾の付け根部分が堅くなっていて、動きが妨げられているようだとわかる。実際にビデオをみると、けなげに精子が前進する様子がわかる。変異体では確かに動きが堅いのがよくわかる。そしてこの変異がやはり精子特異的なPpp3r2KO精子でも同様に起きている。とここで、ようやくひと段落。
次に最初の質問サイクロスポリンやFK506の薬効の解析に入る。ところが、精子を薬剤処理しても受精能は落ちない。すなわち、カルシニューリンは精子の機能でなく精子の成熟過程で機能すると考え、マウスに薬剤を投与する。するとカルシニューリンKO精子と全く同様の表現型が確認できたのである。さらにこれらの薬剤は一過的で、薬剤投与を中止すると受精能は回復する。すなわち、避妊薬として機能するわけである。
そして、最後にヒトに戻る。実はこれまで使用されてきた免疫抑制剤は精子形成過程そのものにも異常をきたしていたが、そのような異常は今回のマウスの解析では見出されず、精子特異的カルシニューリンは、精巣上体でのみ機能し、精子の成熟に必須な因子のようである。今後精子特異的カルシニューリンに特異的な阻害剤が避妊薬の候補となるであろう。ただ、この精子特異的カルシニューリンの標的の同定は今後に残された課題のようである。これも創薬のターゲットになるかもしれませんね。
  (相賀裕美子)

(Science. 2015 Oct 23;350(6259):442-5.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26429887

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