小倉班員の論文がProc Natl Acad Sci U S A. に掲載されました
2015.11.09
小倉先生のグループの論文がPNAS誌に掲載されます。
哺乳類はゲノムの情報を正確に維持するため、様々なDNAメチル化酵素や、piRNAなどで内在性レトロトランスポゾンの活性化を抑制していますが、ゲノムが全体的に脱メチル化される着床前胚においては、胚がどのようにレトロトランスポゾンから守られているのか、まだ解明されていません。小倉先生のグループは、ヒストンシャペロンであるCAF-1に注目して研究を開始されました。
CAF-1ノックアウト (KO) 胚は桑実胚から先へ発生しないこと、KO胚ではクロモセンターといったヘテロクロマチン構造がなくなります。小倉先生らの実験でも、CAF-1のメインサブユニットであるp150をsiRNAにより抑制したノックダウン (KD)胚は、桑実胚から胚盤胞に殆ど発生できませんでした (4%)。次に、発生停止の原因は、レトロトランスポゾンが脱抑制されて活性化した結果ではないかと考えて解析を進められ、LINE-1やSINE-B2、IAPなどの発現量が有意に増えていることを確認されています。さらに、AZTやd4Tといった逆転写酵素阻害剤をKD胚に作用させることで、KD胚の発生率が回復することから、CAF-1のKO胚やKD胚の発生異常の一因がレトロトランスポゾンの活性化にあるということを結論付けられています。見事なレスキュー実験ですね!
なぜレトロトランスポゾン領域が活性化されたのか。桑実胚でChIPすると、p150のKD胚では、レトロトランスポゾン領域でCAF-1が特異的に結合するH3.1とH3.2の蓄積量が低下する一方で、H3.3の蓄積量が増加していました。同じ領域で、H3K9me3やH3K27me3などの、抑制性のヒストンメチル化レベルが低下していました。さらに小倉先生らは、G9aやESETといった様々なメチルトランスフェラーゼのKD胚を作って、レトロトランスポゾン領域の活性化を調べ、H3.1/H3.2のH3K9me3と、H4K20me3が、レトロトランスポゾン領域の抑制に効いているということを示されました。
今回の報告は、ヒストンシャペロンであるCAF-1が、H3K9me3やH4K20me3をゲノムのレトロトランスポゾン領域に導入することで、レトロトランスポゾンの発現を抑制し、初期胚を守っていることを見事に示されました。H3.3のH3K9me3がレトロトランスポゾン抑制に大切とされるES細胞との違いや、レトロトランスポゾン以外の領域でのCAF-1の役割など、今後の解析が楽しみです。
(伊川正人)
(PNAS. 2015 Nov 24;112(47):14641-6.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26546670