伊川班員の論文がProc Natl Acad Sci U S A. に掲載されました
2016.06.30
大阪大学の伊川先生のグループの論文がProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)誌に掲載されました。この論文は2016年2月の京都での国際シンポジウムに来て頂いたBaylor College of MedicineのMartin M. Matzuk先生との国際共同研究論文です。そして第一著者のお一人は半年ほど前にScienceに論文を出した宮田さんです。凄いペースで成果発表されています。
遺伝子の発現プロファイルは、その遺伝子機能を探る上で重要なヒントとなります。伊川先生とMatzuk先生のグループは、ESTデータベースをもとに、まず精巣特異的に発現し、かつ、進化的に保存されている遺伝子を1000(全遺伝子の4%)まで絞り込みました。この1000もの遺伝子が雄性生殖細胞の発生過程や受精においてなんらかの機能を果たしていると期待されます。そしてお家芸とも言えるノックアウトマウス作製技術を用いて、精巣特異的に発現する54もの遺伝子ノックアウトマウスの作製と解析を行いました。そして、予想外?にも、これらの遺伝子は精子形成や稔性に全く影響が無かった、という結論に至っています。解析した54遺伝子の多くは、ヒトや他の生物種で広く保存され、更にESTなどの外部データベースからも精巣特異的な発現が支持されます。それにもかかわらず、表現型が認められなかったことは意外なことと言って良いと思います。これまで、遺伝子発現プロファイルとその機能ドメインなどの情報から、なんとなくこんな機能があるのではないか?と議論されてきた遺伝子が多数ありましたが、この議論に少し修正を入れていく必要があると考えられます。もちろん、表現型が認められなかった原因として、機能が重複する相同遺伝子の存在も考えられますが、この論文の結果は、研究の方向性を考えるきっかけになると思われます。
これまでに伊川先生のグループは国内でいち早くCRISPR/Cas9システムを導入し、ノックアウトマウス作製を通じて本領域の発展に貢献されてきました。ノックアウトマウスの表現型は誰も否定しにくい、いわゆる絶対的なin vivoデータです。この重要かつ必須なデータを得るには、相当の時間と研究費がかかります。ノックアウトマウスは一度作ってしまえば、リソースとして世界中に利用してもらえます。したがって、生殖研究コミュニティーに対する本論文の貢献は多大なものであり、本領域研究のプレゼンスを高めるものと思います。今回は表現型が認められなかった遺伝子の報告ですが、重要なものも見つかっているでしょうから、続報が期待されます。
(齋藤都暁)
(Proc Natl Acad Sci U S A. 2016 Jul 12;113(28):7704-10. )
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27357688