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齋藤班員の論文が Molecular Cellに掲載されました

2016.07.15

 慶應大の齋藤さんのグループの論文がMolecular Cellに掲載されました(公募班の石津さんとの共同研究です)。筆頭著者はこれまでも若手勉強会で活躍されてきた岩崎さんですね。すばらしい。齋藤さんらは、ショウジョウバエの卵巣性体細胞株であるOSCで生殖細胞同様に、PIWIファミリータンパク質が発現しており、トランスポゾン(TE)を抑制していることに着目し、その分子機構を明らかにする詳細な解析を行っています。その結果、PiwiとリンカーヒストンH1が直接結合すること、そして、TEの転写領域にH1がリクルートされると、クロマチン構造が強固になり、Piwiによってリクルートされる他のタンパク質と、協同してTEを抑制するというモデルを提唱しました。

 ショウジョウバエには3種類のPIWIタンパク質(Aubergine, AGO3, Piwi) がありますが、そのうちAubergine, AGO3は、主に細胞質で標的のRNAの分解を介してトランスポゾンを抑えています。一方、Piwiは核内で機能し、転写レベルでTEを抑制することはわかっていましたが、その分子機構は不明でした。Piwi-piRNA complexはこれまで、 Eggless(SETDB) や、HP1aタンパク質と協調して、主に、TE領域にH3K9のトリメチル化を導入することで、TEを抑制していると考えられていましたが、H3K9のトリメチル化自体が抑制にどのように関与するのか、また実際にTEの抑制する構造の実体は何なのかは、不明でした。齋藤さんたちが着目したリンカーヒストンH1はクロマチン構造を強固にする一般的な因子として知られていましたが、TEの抑制という特異的な機能にどのように貢献しているのかは謎でした。

 まず、齋藤さんたちは、Piwiの免疫沈降物の中にH1を発見し、それがPiwiと直接に結合することから重要性を予見し、RNAiを用いたノックダウン(KD)実験を開始しました。その結果、H1をKDするとTEが特異的に脱抑制されること、またその時にPiwiやpiRNAの発現量は影響を受けないことから実際に抑制段階で機能していると考えたわけです。そこで、H1の標的となるTEを同定し、PiwiがないとH1が特異的なTE領域にリクルートされないことを見出しました。ではH1はTE領域でどのような機能をもつのか?ここで齋藤さんらは、リンカーヒストンという性質上、クロマチン構造に寄与するのではないかと考えたわけです。そこでATAC-seq解析を行い、H1がないと、クロマチンが緩むことを実際に見出しました。次に主に抑制マークとされているH3K9me3の状態を調べてみました。ところが、興味深いことにH1をKDしてもH3K9me3状態に変化がないことが明らかになり、これがTEの抑制をしているわけではないということが分かったわけです。さらにH1同様にTEの抑制に機能することが知られているHP1aやMaelstrom(Mael)をKDしてもH3K9me3は変化しません。そこで、これらの因子の関係を調べたところ、H1とHP1a、Maelはそれぞれ独立に機能すること、HP1aはH3K9me3と相互作用すること、またHP1a、Maelもクロマチンの構造の強化を介してTEの抑制に寄与することを明らかにしています。従って、TEの抑制にはPiwiと相互作用するH1, HP1a, Maelなどが何層にも折り重なり、クロマチンに転写因子がアクセスできないように強固に固めることにより、TEの抑制を可能にしていると結論づけています。

 まさしく我々の新学術領域を代表する、エピゲノム解析の王道のような論文で、ChIP-seqオンパレードで、私には酷な論文でしたが、よい勉強になりました。In vivoではほとんど不可能な解析を次々に繰り出せるところを拝見して、よい培養細胞系を持つことは重要だなあと痛感いたしました。
  (相賀裕美子)

(Mol Cell. 2016 Aug 4;63(3):408-19.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27425411

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