相賀班員の論文がPLOS Biologyに掲載されました
2016.09.23
国立遺伝学研究所の相賀先生のグループの論文がPLOS Biologyに掲載されました。
様々な遺伝子改変マウスを駆使した解析から、生殖細胞の雌への分化に重要なシグナル伝達経路の一端を解明することに成功しました。
始原生殖細胞は生殖巣に到達後、体細胞からのシグナルを受けて性決定されると考えられます。オスではSRYによって誘導されるFGF9が精巣の形成に、雌ではWNTシグナルが卵巣の形成に重要な役割を果たすことが知られています。相賀先生のグループは以前、生殖細胞の雄性化にはSMAD2シグナルによって誘導されるNANOS2が重要な役割を果たすことを示されています。今回は生殖細胞の雌性化に重要なシグナル伝達経路をつきとめました。
まず、相賀先生たちは体細胞の雌性化に重要なWNT4−BMPシグナルに着目し、このシグナルの下流のSMAD4の生殖細胞特異的ノックアウトマウスを作製しました。その生殖細胞は減数分裂を開始するものの、進行に異常を来し、死滅しました。しかし、レチノイン酸により誘導され、減数分裂の開始に重要な働きをするSTRA8の発現は保たれていたことから、SMAD4はレチノイン酸とは異なるシグナル経路で、減数分裂の進行に関わることが示唆されました。
次に上述のノックアウトマウスの卵巣をレチノイン酸の阻害剤下で器官培養したところ、生殖細胞の雄性化に重要なNANOS2を発現する細胞が出現しました。この結果は、SMAD4とレチノイン酸シグナルが協調的に働き、生殖細胞の雌性化を制御することを示唆します。この可能性をin vivoで検証するため、SMAD4とSTRA8の両方の遺伝子を生殖細胞特異的にノックアウトしたマウスの卵巣を解析したところ、卵巣内にNANOS2とその下流因子のDNMT3Lを発現する前精原細胞様の性質を示す生殖細胞が出現し、生殖細胞の性転換が生じていることが確認できました。また、マイクロアレイ解析からこの性転換は体細胞の性転換の結果でないことも確認しました。以上より、SMAD4とSTRA8が生殖細胞の雌性化に必須な因子であることが示されました。
本論文は、in vivoの解析を中心とした素晴らしい仕事で、とても読み応えがありました。雌の体細胞環境でも生殖細胞が雄に転換することに驚いたと同時に、性転換の新たな概念を提唱する発見であると思いました。シグナル伝達経路がさらに詳しく解明されれば、近い将来、培養下で生殖細胞の性を決定することが可能になるかも知れません。
(白根健次郎、佐々木裕之)
(PLoS Biol. 2016 Sep 8;14(9):e1002553. )
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27606421