篠原班員の論文がGenes Devに掲載されました
2016.12.26
本領域の代表である京都大学 篠原隆司先生のグループの論文がGenes and Developmentに掲載されました。今回の論文では、精原幹細胞 (SSC)における転写因子MYC/MYCNの機能解析を切り口に、SSCの自己複製における解糖系の役割を突き止めただけではなく、解糖系の上流で働くシグナル活性化剤を利用して、これまで長期培養が困難であったB6由来の精子幹細胞(GS細胞)の長期培養にも成功しております。
篠原先生のグループは以前、ユビキチンリガーゼであるFBXW7がMYCの発現を抑制することで、SSCの自己複製を負に制御することを突き止めていました。今回の論文では、まずGS細胞を用いてFGF2とGDNFが転写因子FOXO1を介してMYC/MYCNの発現誘導に関与していることを示しています。次に機能解析ですが、MYC/MYCNをSSCで二重欠損することで、SSCの自己複製活性とGS細胞の増殖能の低下を引き起こすことが分かりました。MYC/MYCN DKO GS細胞では細胞周期の正の制御因子、サイクリンD2とCDC25Aの発現が低下していたため、強制発現でその発現をレスキューしてあげるとGS細胞の増殖能は回復しましたが、一方で精巣に移植してもSSCの定着率を改善することはできませんでした。そこで、MYCがミトコンドリアの生合成に関わるという知見をもとに、MYC/MYCNが代謝経路の切り替えを行うことで、SSCの自己複製と分化のバランスを調節している可能性を検証しています。その結果、SSCはTCA回路よりも解糖系を優位に使っており、この解糖系を阻害するとSSCの自己複製活性が低下すること、また解糖系の促進にMYC/MYCNが関与していることを見出しています。ここからが驚きの展開で、GS細胞の樹立・維持が困難であるB6由来のSSCで解糖系の活性が低いことを突き止め、AKTシグナルの上流で働くPdpk1の活性化剤であるPS48をB6由来のSSCに添加することで解糖系が活性化され、GS細胞の樹立に成功しています。このB6由来のGS細胞はDBA/2由来のGS細胞と遜色なく精巣への定着活性を持ち、さらに精巣移植によって産仔が得られることも示しています。
分子カスケード解析を可能にする培養系とその機能を評価する移植系の組み合わせは本当にパワフルなツールであり、しかも同定した分子カスケードを人為的に制御することで応用研究に繋げる論理展開は読んでいて大変感動しました。また、解糖系に大きく依存した代謝経路は多能性幹細胞であるES細胞や他の組織幹細胞でも観察されるため、GS細胞の自己複製活性に対する解糖系の役割の詳細がさらに解明されることで、人為的な組織幹細胞制御に繋がることも期待できます。
(関由行)
(Genes Dev. 2016 Dec 1;30(23):2637-2648. )
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28007786