原田班員の論文がCell Reportsに掲載されました
2017.01.19
公募班 九州大学・原田哲仁先生のグループの論文がCell Reportsに掲載されました。
今回の論文では九州大学の原田先生が精巣に特異的なヒストンバリアントであるH3t遺伝子のノックアウトマウスが報告されています。領域内メンバーのみならず、胡桃坂先生の新学術領域との一大共同研究の成果です。
このヒストンバリアントはH3.1と3つのアミノ酸しか違いません。にもかかわらず、H3t遺伝子のノックアウトマウスでは分化型の精原細胞より後のステージの生殖細胞が欠損して不妊になってしまいます。興味深いことにH3tは未分化型の精原細胞には発現しておらず、また精子にも見当たらず、精子形成で一過性に発現するけれども精子形成に必要という新しいタイプのヒストンバリアントです。
原田さんらはノックアウスを作成したのちに、GS細胞も樹立されています。通常の培養条件ではGS細胞にH3tは発現が見られず、その増殖にも影響がありません。しかし、レチノイン酸を加えると三日くらいで誘導されてきます。
GS細胞にレチノイン酸を加えて分化誘導をかけると減数分裂に移行することが以前より知られていますが、この実験系でも野生型では細胞と細胞がつながったように見えるGS細胞がH3tのノックアウトマウス由来の場合には異常な形態になってしまいます。このGS細胞を用いた実験からも、H3tが減数分裂に入るのに必要な遺伝子であるということが確認されました。
普通であれば、このあたりで実験終了というところです。さらに、胡桃坂班との連携で、構造についても解析を行っています。構造解析の結果から、H3tを含むヌクレオソームはオープンなクロマチン構造を取ることを詳細に示されています。最終的にはH3tのH42残基が鍵となることまで突き止めておられるのには感服しました。
精子形成はヒストンから始まりプロタミンで終わるというのが教科書的ではありますが、どんどんと新しいバリアントが出てきて複雑に絡み合って機能していることが分かってきました。どんなルールがあるのでしょう?昔、自分が独立准教授で京大の先端領域融合機構にいた時、同僚の胡桃坂班の木村宏先生(本論文の共著者ですね)に、ヒストンはいろいろあるからGS細胞でのヒストンを一回調べてみたらと言われましたが、確かに奥が深いと実感しだしたのはつい最近のことです。今回のお仕事を基礎にして原田さんにはぜひ精子形成の鍵となるヒストン制御研究で新しい局面を切り開いていって頂きたいです。今後の活躍を期待しています。
(篠原隆司)
(Cell Rep. 2017 Jan 17;18(3):593-600. )
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28099840