佐々木班員の論文がNucleic Acids Resに掲載されました
2017.02.09
九州大学 生体防御医学研究所 佐々木裕之先生のグループの論文がNucleic Acids Research誌に掲載されました。本領域の中馬先生、相賀先生、また、仲野先生らとの領域内共同研究になります。筆頭著者は大学院生の樺山由佳さんです。
ご存知のようにPiwi-interacting RNA (piRNA)は、生殖細胞で産生され、精子形成およびレトロトランスポゾンの抑制に必要な小分子RNAです。本論文では、これまで未解明であった卵子におけるpiRNAに焦点を当て、その産生メカニズムと機能について明らかにされました。
卵子においてpiRNAの発現は確認されるものの、piRNA産生因子のノックアウトメスマウスは妊孕性があるため、詳細なpiRNA解析はなされていませんでした。そこで、樺山さん、佐々木先生らは、卵子形成過程におけるpiRNA産生タンパク質の発現をプロファイルすることから始められました。特に、Pld6の発現プロファイルを初めて明らかにされ、卵子形成初期から発現し、P20卵子でピークとなることが分かりました。
piRNA産生に関与する因子の多くはミトコンドリア間に存在する細胞質構造体「ヌアージュ」に局在しますが、卵子形成過程を通して強く発現するMiliをノックアウトしたMili-/-卵子では、ヌアージュの消失とpiRNA産生の著しい減少が生じました。これから、Miliは卵子のpiRNA経路において中心的な役割を担っていることが分かりました。一方で、精子形成過程においてpiRNA産生の中枢を担うMIWIの発現と貢献度は成長期卵子では低いことが示され、piRNA産生において雌雄で異なるメカニズムが存在することが示唆されました。決定的なのは、雄性生殖細胞とは異なり、Pld6-/-卵子においてレトロトランスポゾン由来のpiRNA産生が完全には抑制されず、50%ほど残っていたことです。これは、卵子では一次piRNAの産生を他の因子が補償することを示唆しており、新たなpiRNA産生経路の存在解明が期待されます。
さらに、樺山さん、佐々木先生らは、通常のpiRNAよりも短いレトロトランスポゾン由来の21-23塩基長のRNA群spiRNA (short piRNA)を発見しておられます。spiRNAの機能についてはこれからの解析が期待されます。また、本論文で解析されたMili, Pdl6は一部のレトロトランスポゾンの抑制に関与しており、今後、卵子の成長・成熟段階における個々のレトロトランスポゾンのpiRNA経路による制御メカニズムの解明が期待されます。
最後に、樺山さん、佐々木先生らは、大規模シーケンシングによって卵子由来piRNAを卵巣全体のRNAから検出する系を確立されました。これにより、使用するマウス数の削減と卵子の回収作業の省略が達成されています。動物実験の基準理念である3R (Replacement, Reduction, Refinement)を見事に体現されており、私も見習わなければならないと思いました。
(原田哲仁)
(Nucleic Acids Res. [Epub ahead of print] )
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28115634