遠藤班の論文がeLIFEに掲載されました
2017.03.27
遠藤充浩先生の論文がeLIFEに掲載されました。奥田晶彦先生との共同研究の成果です。これまで解析が進んでいなかったnon-canonical PRC1(ncPRC1)コンポーネントの一つであるPCGF6に着目し、in vivoでの機能を初めて明らかにされました。
ポリコーム群タンパク質は発生関連遺伝子をエピジェネティックに抑制する進化的に保存された因子群です。H2AK119ub1を導入するPRC1、H3K27me3を導入するPRC2という2つの複合体を形成し、PRC1はさらにcanonical、non-canonicalに区別されます。これらの複合体に含まれる無数の因子がPRCによる遺伝子発現の抑制を精巧に制御すると考えられており、その一つがPCGFファミリータンパク質です。以前の研究によりPCGF1-ncPRC1がPRC2を標的遺伝子へリクルートすることがわかっていましたが、今回はPCGF6-ncPRC1がPCGF1とは全く異なるメカニズムで機能することを見出されました。
まず、マウスES細胞におけるLC-MS/MS解析によってPCGF6がncPRC1、cPRC1の主要なコンポーネントであるRING1Bと強く結合すること、ChIP-seqによってPCGF6とRING1Bの標的遺伝子が重なることを示されました。興味深いことにPCGF6の標的は生殖細胞遺伝子や減数分裂遺伝子に富んでいました。さらに、一般的なPRC1の標的に見られる特徴(DNAメチル化レベルが低い、長いCGIプロモーター領域)と異なりPCGF6の標的遺伝子のDNAメチル化レベルはやや高く、CGIは短いことがわかり、ncPRC1をリクルートする新たなメカニズムが示唆されました。
PCGF6-ncPRC1の結合DNA配列を解析し、遠藤先生らはbHLHZ転写因子であるMAXの結合モチーフを見出しました。MAXはE-box結合タンパク質であるMGAとヘテロダイマーを形成することが報告されていますが、LC-MS/MS解析によってMGAがPCGF6と結合することがわかりました。MAX/MGAどちらのノックダウンでも標的へのPCGF6の結合が阻害され、これらの転写因子によってPCGF6-ncPRC1がリクルートされることを示されました。
さらに、Pcgf6を欠損したES細胞やEpiLCは増殖を停止したことから、PCGF6-ncPRC1は生殖細胞・減数分裂遺伝子を抑制することで多能性維持に寄与すると考えられました。作製したPcgf6欠損マウスは期待されるメンデル比では出生せず、ホモ欠損胚はすでに胚盤胞期の時点で有意に減少していることがわかりました。また出生した個体ではHoxb6遺伝子の異所的な発現による頸椎や胸骨の異常が見られ、E11.5日の胎盤は発達不全(特にspongiotrophoblastとtrophoblast giant cell)を呈するなど様々な表現型が観察されました。以上のことより、PCFG6-ncPRC1は配列特異的なDNA結合因子であるMAX/MGAヘテロダイマーによって生殖細胞・減数分裂遺伝子にリクルートされて転写を抑制し、着床前後の正常な胚発生に寄与することが明らかになりました。
本論文はPCGF6の機能を詳細に解析するため生化学実験、大規模解析、ノックアウトマウスの作製など膨大な実験を緻密に重ねられた非常に内容の濃い報告で大変読み応えがありました。PCGF6は生体内にユビキタスに発現しており、出生後にPcgf6欠損個体が死に至るメカニズムなどが今後解明されることが期待されます。
(樺山由佳、佐々木裕之)
eLIFE 2017 Mar 17;6. pii: e21064.
https://elifesciences.org/content/6/e21064