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小倉班の論文がEMBO Reportsに掲載されました

2017.05.10

食物や花粉など外来物質の生体内への取り込みによって引き起こされるアレルギー症状は、現代社会で多くの人々の健康を脅かしています。問題の解決のためには、モデル動物の開発が重要ですが、今回、私たちは、東京都医学総合研究所、塩野義製薬株式会社との共同研究で体細胞クローン技術により新たなアレルギーモデルマウスの作製に成功しました。

 これまで、実験動物をアレルギー症状のモデルとして利用するには、抗原を長期間にわたり何度も投与した動物を利用したり、T-cell receptor (TCR)遺伝子を人為的に導入したトランスジェニックマウスが利用されてきましたが、樹立までに時間がかかる、生体内での反応を正確に再現できない、などの問題点がありました。今回、我々は、アレルギー物質であるダニ抗原や、アレルギー研究でよく使われる卵白由来タンパク質であるオボアルブミン(OVA)をマウスに投与し、抗原特異的なCD4陽性T細胞をリンパ節より採取した後、抗原存在下で体外培養を行って増殖させたT細胞を核ドナー細胞として用い、核移植クローンの作製を行いました。

 リンパ球は、一般的にクローン個体が作製しにくい細胞種として知られていますが、今回の実験では3.7%の効率で18匹のクローンマウスが誕生しました。誕生したマウスの内、11匹は成体まで成長し、内8匹のマウスより採取されたリンパ球は抗原投与により特異的な増殖を示したため、これら8匹のマウスのドナーが抗原感作されたCD4陽性T細胞に由来することが明らかとなりました。得られたマウスより採取されたリンパ球のRNAから、再構成TCR遺伝子の同定を行いました。クローンマウスではリンパ球のみならず全身の細胞が再構成TCR遺伝子を持っています。作製されたクローンマウスは正常な生殖能力を有しているため、野生型マウスと交配することでこの配列は生殖細胞を通して次世代にも伝わりました。

 再構成されたCD4陽性T細胞を持つマウスは、ダニ抗原、またはOVAを数回投与しただけで、1-2週間以内に気管支喘息やアレルギー性鼻炎に似た重篤なアレルギー症状を示しました。ダニ抗原反応性CD4陽性T細胞由来のクローンマウス系統では、ダニ抗原の投与によって気管支肺胞領域に強い炎症が生じ、気道上皮の肥厚およびリンパ球や好酸球の浸潤が観察されたほか、気道過敏性の亢進など気管支喘息に似た独特の症状がみられました。また、これまでTCRはα鎖とβ鎖が揃って二量体を形成しないと抗原反応性を示さないと考えられていましたが、このマウスを使ってα鎖のみ、またはβ鎖のみを持つ次世代を作製したところ、いずれか一種が揃っていれば抗原に明確な反応性を示すことが明らかとなりました。

 本研究は、エピジェネティクス研究によるクローン技術の向上に加えて、免疫分野におけるT細胞培養などの先進的な技術の融合によって新たに得られた成果です。本研究によって得られたアレルギーモデルマウスは、遺伝子操作を経ていない非組換えのマウス系統であるため、利用者にとっても使用しやすいモデルマウスであると言えます。

(井上 貴美子)

EMBO Reports

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28468955

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