小倉班の論文がCell Reportsに掲載されました
2017.09.20
小倉淳郎先生のグループの論文がCell Reports誌に掲載されました。本領域の中村肇伸先生と仲野徹先生
も共同研究者に含まれています。
筆頭著者は2014年の若手勉強会の世話人だった畑中勇輝さんです。前回PNAS誌に筆頭著者として論文を発表
されてから2年しか経っていませんが、またもやインパクトの高い論文が発表されました。
受精後の雄性ゲノムでは、分化全能性の獲得に向けて、プロタミンからヒストンへの置換や能動的なDNAの
脱メチル化が起こります。しかし、その背景にある詳しい分子機構は分かっていません。
本研究では、これらの現象に関わる新たな因子としてMETTL23の同定に成功しています。
研究グループは、能動的なDNA脱メチル化に関与するGSEに着目しました。酵母ツーハイブリッド法を用いてGSEと
相互作用するタンパク質の探索を行い、見つかったのがアルギニンメチル化酵素の機能ドメインを持つMETTL23です。
さらにメチル化特異的抗体や質量分析を駆使して、METTL23がヒストンH3の17番目アルギニンのジメチル化を触媒することを明らかにしました。
続いてMettle23のKOマウスを作製しました。KO受精卵を観察してみると、雄性ゲノムで、DNA脱メチル化過程の
産物である5hmcの蓄積が起こりませんでした。さらに脱メチル化酵素TET3の雄性ゲノムへの蓄積も減少しました。
これよりMETTL23はTET3を雄性ゲノムへリクルートすることによって、DNA脱メチル化に関与していると考えられます。
解析はこれだけで終わりません。さらに17番目のアルギニンをリジンに置換したヒストンH3.3変異体を受精卵で
発現させると、雄性ゲノムへの取り込みが著しく減少しました。よってMETTL23は、TET3のリクルートだけでなく、
アルギニンジメチル化を介して、ヒストンH3.3の雄性ゲノムへの取り込みにも関わっていることが明らかになりました。
METTL23のKOマウスは産仔数が減るものの不妊ではないようです。スペースの都合で割愛させていただきましたが、
本研究ではGseのKOマウスも作製しており、KOマウスの生殖能力は低下していません。私達は不妊など表現型が
はっきりと出る因子に着目しがちですが、それでは重要な因子を見逃してしまうと改めて考えさせられました。
本研究では、酵母ツーハイブリッド法を用いて雄性ゲノム再構築に関わる因子を見事に同定しています。
ゲノム再構築に関わる因子は他にも多く存在すると考えられるため、本領域で築かれたネットワークを活用することで、
さらに新たな因子が見つかることが期待されます。
(宮田 治彦)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28930672
理化学研究所プレスリリース