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篠原班の論文がStem Cell Reportsに掲載されました

2017.09.25

本領域の代表者である京都大学 篠原隆司先生のグループの論文がStem Cell Reports誌に掲載されました。
主に鳥取大学 染色体工学研究センターの香月康宏先生、押村光雄先生のグループとの共同研究です。
コレスポは篠原美都先生と香月康宏先生で、筆頭著者はなんと篠原隆司先生ご自身と、香月加奈子先生です。
小倉研の3人も顕微授精で協力させて頂きました。

 個体への遺伝子導入技術がマウス遺伝学に大きく貢献してきたのは言うまでもありませんが、通常の
トランスジェニックマウスのように短い遺伝子断片を導入したものの他に、数メガベーススケールの巨大な
染色体断片を丸ごと導入するトランスクロモソーム(Tc)マウスがあります。これまでTcマウスを作出する際は、
ES細胞に導入する手法が一般的でしたが、ES細胞は染色体構成が安定せず、しばしば導入したTcが抜け落ちるなどの
問題がありました。この点、GS細胞は染色体構成が非常に安定していることが知られています。本論文では、
このGS細胞に巨大なマウス人工染色体(MAC)を導入して安定して維持することに成功し、さらにこのMAC-GS細胞を
生体マウスの精細管へ移植することで、MAC-GS由来の精子を得て、そこからMAC-Tcマウスを作出することに
成功されました。

まず、篠原先生達はMACの導入手法から検討されています。一般的に巨大な染色体断片を細胞へ導入する際は、
マイクロセルと呼ばれる小さなドロップに染色体断片を取り込ませたうえで、細胞内へ送り込みます。
本論文では、通常使われるポリエチレングリコールを使った手法がGS細胞ではうまくいかなかったので、
本論文の共著者である鈴木輝彦先生(都医学研)が開発されたレトロウィルスのエンベロープで包み込む手法
(retro-MMCT法)を用いました。その結果、MACを効率よくGS細胞へ導入することができ、導入したMACを安定して
持つGS細胞株を樹立することに成功されました。

 今回使用しているMAC上には薬剤耐性遺伝子やEGFPが乗っている以外に特に遺伝子は存在しないのですが、
不思議なことに、MAC導入によってわずかにGS細胞の性質が変化していました。細胞表面タンパク、mRNAレベルで
いくつかの遺伝子の発現量が変化しており、細胞分裂速度が速まる一方でアポトーシスの頻度も上がるなどの
表現型の変化も見られました。しかしながら、コロニー形態などは変わっておらず、MAC導入後も基本的なGS細胞の
性質は維持しているようです。長期培養した後でも、MAC-GS細胞はほとんどが培養開始時期と同じ染色体構成を
維持していたのに対し、MACを導入したES細胞は核型が安定せず、培養開始時と同じ染色体構成のものは10-20%程度で、
一部の株ではMAC自体が無くなっているポピュレーションも見られました。やはりGS細胞はES細胞と比べてMACなどの
巨大人工染色体の入れ物として優れているようです。

最後には定番の実験ですが、MAC-GS細胞を精細管内へと移植して精子発生することを確認し、これらのMAC-GS細胞由来
精子を用いた顕微授精および自然交配によって、MAC-Tcマウスが無事生まれています。

MACなどの巨大な導入染色体はもともと細胞内にある染色体とは独立して維持されるので、内在性遺伝子達を破壊せず
影響を与えにくいという利点があります。さらに、遺伝子コード領域だけでなく周辺のエンハンサーなど発現制御
エレメントも丸ごと導入されるため、MAC上の遺伝子達は生理的な遺伝子発現制御を受けやすいという利点もあります。
MAC-GS細胞技術の未来として、ラットなど他の広範な動物種へ広げていくことの他に、ヒト人工染色体(HAC)をマウス
GS細胞に導入することによるヒト化マウスの作成、さらにヒトの染色体異常の解析モデルの作出など、幅広い貢献が
期待されます。

篠原先生のグループでは2003年のGS細胞樹立成功以来、GS細胞を用いた遺伝子改変技術を多数開発されてきましたが、
本論文でまたさらにGS細胞の可能性を広げることになりました。今回の仕事は今から14年も前、香月先生・押村先生の
グループが染色体工学技術を開発されたばかりの頃に、篠原先生が押村先生に相談したところから始まっていると
伺いました。自分で実験系を立ち上げて新しいフィールドを作り、さらに積極的に新技術を導入してその
実験系・フィールドの価値を高めていく、という理想的なステップを実現されている篠原先生の後ろ姿からも
学ぶものが多い論文でした。

(的場章悟)

Stem Cell Reports
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28943251

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